「谷中村滅亡史」(荒畑寒村)①

私が知っていたことはほんの表面だけだった

「谷中村滅亡史」(荒畑寒村)
 岩波文庫

著者荒畑寒村の名前は知らなくても、
本書に登場する「足尾鉱毒事件」と
田中正造の名前は
多くの方が知っていると思います。
前者は我が国最初の公害事件であり、
後者はその真相を
国会で激しく追及した政治家です。
本書にはこの田中正造の運動を
中心とした「足尾」の全貌が、
詳細に綴られています。

驚きました。
私が知っていたことは、
ほんの表面的な部分だけだったことに
気付かされました。
単に鉱山経営者が
横暴だっただけではなかったのです。

驚いたこと①
鉱毒は意図的に垂れ流されていた

鉱石採掘時に排出される鉱毒が、
企業側の管理不十分によって
渡良瀬川に流入していたものと
思っていました。
ところが真相は
廃石処理の費用抑制のために、
大雨による増水中を見はからい、
川に廃石そのものを廃棄していたのです。

驚いたこと②
行政は意図的に企業を保護していた

行政の歩みの遅さは
怠慢によるものだと思っていました。
実際は時の農商務大臣・陸奥宗光が
古河鉱業を擁護し、
田中の訴えを無視していたのです。
後に外務相として
辣腕を振るうこの陸奥宗光、
実は二男が古河の娘婿養子と
なっていたからです。
こともあろうに
農民の利益を代表すべきはずの
農商務大臣が、
古河一族の身内だったのですから
救われるはずなど有り得ないのです。

驚いたこと③
混乱に乗じて詐取が行われていた

栃木県知事は村債を発行し、
堤防工事を遂行します。
しかし堤防を改修するどころか
わざと弱体化させ、
水害が起きやすくし、
村民の移転を図ります。
さらに工事費は着服され、
村民には村債という
膨大な借金が残る構図です。

驚いたこと④
土地強制収用法が適用されていた

鉱毒事件発覚から二十数年後、
戸数はわずか
20戸足らずとなっていた村に、
とどめの一撃、
土地強制収用法が適用されます。
代替の収容施設も準備されない中で、
強制的な家屋撤去が
行われていたのです。

そのほかにも目を覆いたくなるような、
企業と行政が結託しての
非道きわまりない所行が
記録されています。
日本の近代史には
このような闇の歴史が
数多く存在したのでしょう。

本書は著者荒畑寒村20歳のときの
作品です(1907年)。そのため
記されている出来事のほとんどには
立ち会っていないはずであり、
取材・伝聞をもとに
記述したと思われます。
したがって、内容の正確さについては
疑問を挟む余地が多分にあります。
それを差し引いても、
本書には現代の私たちが
学ぶべきところが多々あると考えます。

明治40年出版の本書は、決して
読みやすい文体ではないのですが、
興奮のあまり
一気呵成に読んでしまいました。
後世に残すべき
貴重な一冊だと思います。

(2019.11.28)

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